アメリカと中国の崩壊を救う極東の「日のいずる国」 No.44【2004年8月16日】
アメリカの本当の敵はユーロ?
アメリカはイラクに単独先制攻撃をかけることで、シラク大統領の企んだフセインによるイラク産の石油販売代金のユーロ決済を、なんとか阻止することに成功した。ところが、サウジが主導するOPECは、いまだに決済通貨をドルに戻していない。だからアメリカのブッシュを操る軍事政権ネオコンは、まだまだ国際協調派に政権を奪われてしまうわけにはいかないのである。
それに中国のミサイル技術が、中東諸国やイスラム原理主義勢力に売り込まれて、すでに流出している核兵器と中国の弾道ミサイル技術が結びついてしまうと、ユーロ同様に、アメリカの世界覇権のバランスがまたもや崩壊してしまうことになる。パキスタンの「原爆の父」と言われるカーン博士の核技術が北朝鮮やイランやリビア等に売られていたことがメディアに騒がれてまもないが、どうやらこれも、中国がパキスタンを使って転売させたものである可能性が高いようである。
確かに中国は、アメリカやソ連についで宇宙有人飛行を実現させているから、大気圏再突入型の高度なICBM技術を実用化させたことを世界に証明して見せている。その中国のミサイル技術が、中東の購入予定者であるイスラム原理主義勢力と結びつくことを、いまアメリカは一番恐れている。とりあえず親米であるはずの多くのアラブ諸国が、アメリカのコントロールできない弾道ミサイル兵器を次々と手にすることで、突然「民主化抵抗運動」を始めないとも限らないからである。
だからこそアメリカは、台湾や韓国や日本に、最近になって最新のミサイル包囲網を配備することで中国を徹底的に脅して、中東のアラブ王制に、これ以上ちょっかいをかけないように「目に見える脅威」によって封じ込めようとしている。
7月25日のコラム
に詳しく書いた、これらの「目に見える脅威」の中国包囲網の構築は、アメリカのイラク先制攻撃の「隠されたもうひとつの理由」である故に、ある意味で絶対に不可欠なものだったようである。しかしそんな風な本音を、世界覇権国の戦略上、アメリカは絶対に語るわけにはいかないから、「テロとの戦争」をでっちあげて、実際には真犯人でも脅威でもないオサマ・ビンラディンやサダム・フセイン等を「凶悪な悪役」に仕立てて、「アフガンやイラク等の先制攻撃劇」をリリースしたわけである。
アジア共同市場は日本にとって最大のチャンス
ここまでは、すんなりわかってもらえると思う。だとすると、後に残るのは「中国」である。中国は常任理事国でもあるわけだから、「ならず者国家」にするには無理があるから、日本をアジア太平洋に於ける頭脳と情報のコアのように演出すると同時に台湾や韓国の軍事増強をはかり、中国包囲網を固めたのである。バブル化していると言われつつも経済成長を続けている中国は、いま外貨準備高の半分をユーロにすると堂々と公言している。それゆえに、台湾や韓国そして日本が、万が一にも中国の影響を受けてユーロ経済圏に吸収されるようなことが起こったなら、パックス・アメリカーナは完全に崩壊してしまうのである。
そんなことをアメリカの軍事政権ネオコンが許すはずがないのである。ここにもブッシュ政権が再選されなければならない理由が存在するように思うのだ。国際協調主義では、いま、このアメリカ帝国の危機を救うことはできない状況になっている。それはまた一方で、国際金融勢力の望むところなのである。この新たなEUとアメリカの対立軸を創造することで、「勢力の均衡」をはかろうとするうごきである。彼らは、冷戦後の新たなる「混乱」を創造してくれる強敵、「ヨーロッパ合衆国」をなんとしても創造して、ヨーロッパ経済圏からしだいにドルを排除していこうとしているのである。
しかしこのタイミングこそ、以前から言っているように、日本には最大のチャンスになるのではないか。ユーロであけた穴を、アジア圏で埋められるように、日本が中心となって、アメリカ対策としてアジア共同市場のイニシアティブを積極的に行なっていけばいいのだ。ところが、かつてマレーシアのマハティール首相が、宮沢元総理に円を基軸通貨としたアジア共同市場の創設を提案してきた流れのなかで、アジア危機がタイに発生したときに、当時の大蔵省財務官榊原英資氏が「アジア通貨基金(AMF)を設立しましょう」とIMFに提案したら、アメリカに強硬な反対をされてしまった経緯がある。
もちろん、あの時に日本がタイを救ってしまったら、タイを初めてとしたアジア危機が起こらなくなってしまっていただろうから、アメリカが反対したのは覇権国としては当たり前のことである。アジア危機が勃発しなかったなら、大手企業や銀行が窮地に追い込まれないわけだから、アメリカのハゲタカ・ファンドが入って活躍する場面がやってこなくなってしまうからだ。アジア危機が予定通り起きたからこそ、タイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシア等にアメリカ資本が「叩き値」で参入できたのである。もしあの段階で日本がAMF(アジア通貨基金)を導入していたなら、アジアに対する日本の影響力は、現在相当のものになっていたにちがいない。
とにかく2003年、タイのタクシン首相が日本に提案したアジア債権市場が、今はアメリカの支援のもとに再び動き始めている。EUがアメリカと明確な対立軸になった今こそ、ユーロで穴のあいたドル基軸体制を救済するために、アメリカのエージェントとしてアジア共同市場を実現に向けて動けばいいのである。こうした日本のイニシアティブは、アメリカにとって、今度は逆に天からの恵みとなるはずである。
問題なのは中国?
問題なのは中国である。中国は、日本をアメリカの衛星国として位置づけ、いずれは地球上から消滅してしまう取るに足らない国として認識しているらしく、また国民に対してもそう教育しているようである。だから日本がアジア共同市場のイニシアティブをとることに対しては、正直言って相当に抵抗すると思われる。
そんな折の8月3日、中国の済南で行われたサッカー・アジアカップ準決勝(日本対バーレーン)では、地元住民が反日感情をあらわにし、観客席には「歴史を見なおし、アジアの人民にお詫びし、尖閣諸島と魚釣島を返せ」と書いた横断幕が掲げられていた。日本がゴールを決めるとブーイングし、外すと大歓声が起こった。さらにサッカーのアジア・カップ決勝終了後の7日の夜、競技場を出ようとした日本公使の車の後部ガラスが中国人サポーターによって割られ、数千人のサポーターが「日の丸」を焼いたりして「文化程度の低さ」を国際社会にメディアを通して露呈してもいる。
私の気持ちとしては、余計なお世話かもしれないが、愛国心に溢れた中国人サポーターに、今の日本人が「日の丸」や「君が代」に対してまるで愛着心を持っていない現実をそっと教えてあげたい気がする。恐らく、愛国心に燃えた中国人サポーターは、腰を抜かすくらいにたまげるにちがいない。 やれやれ
その一方で日本のマスコミは、中国に進出することこそが、企業が未来のサバイバルに生き残る唯一の道であるかのごとく喧伝している。朝日と毎日と日経新聞等が、その傾向が強いように感じる。現実としての日本企業の中国進出は、実際には中国の地場企業との合弁を余儀なくされるケースが大部分を占めるようである。外国企業を労働力の異常な安さを武器に誘い込んで企業連合を作り、うまく最先端の技術を習得した後は、ハイ、サヨナラとばかりに、自分勝手にプロジェクトを解散してしまうのが中国の得意技のようである。
農村経済が解体したために、多くの貧しい中国人民の持っているやり場のない怒りと不満を、軍と共産党が一体となったクローニーキャピタリズム(縁故主義)を剥き出しにして、そのはけ口を「日本企業」に向けてきている。そんな風な大陸的な略奪思想から縁遠い、どちらかと言えばノホホンとした日本企業は、好きなように利用されむしり取られてしまうのだ。同じアジア人でも、島国の日本とはまるで気質が違うようである。さらに物価レベルは他のASEANと大差ないのに、「労賃」が異常に安いのは「社会保険」なしの奴隷的賃金だったからで、それもWTO加盟によって許されなくなってきているようである。
だとすれば、これからはカントリーリスクが低くて比較的親日的な東南アジア諸国に工場を建てるようにして、そこからASEANやインドや中国市場をねらうという選択をしたらよいのではないか。また昨年ピーター・ドラッカーは「インドへの投資の方が中国より魅力的である」と“フォーブス誌”で語り、「巨大な軍と農村の余剰を都会の製造業が吸収するという社会構造の変化を、中国に望むのは無理だろう。何よりも教育を受けたエンジニア、スペシャリストがインドに大量に育っている」と続けている。また宮崎正弘氏は国際ニュース・早読みの記事の中で、「給料の多寡で人生を決める中国人とは異なり、インド人は即物的金銭欲だけでは動かない。インド人の人生の目的は、ヒンズー教の伝統に基盤があるため、より崇高で高邁なものを志し、商取引でも尊法精神が守られ、猥雑な側面が少ない」と紹介している。
5月に韓国の済州島で開かれた「アジア開発銀行(ADB)」の年次総会で、千野忠男総裁は「アジア通貨建て債権市場の育成」に関してリーダーシップを取り、活発な議論が展開された。アジア開発銀行ではすでにインドでルピー建て債券が発行され、近くタイのバーツ建てや中国の元建ての債券も発行される予定になっているが、ともかくインドが一番だったことに注目したい。そしてADB年次総会で話題の中心となったのは、中国経済の過熱とその危機についてだった。世界の銀行家たちは、ようするに、中国のバブルと加熱に対してそろそろ警戒態勢に入ったということのようである。
中国のために人民元のペッグ制を守れ
そういった流れを踏まえた上で、日本はユーロがあけた穴をアジア圏で埋められるよう、アメリカ対策としてのアジア共同市場のイニシアティブを積極的に取っていかなければならない。とりあえずは日本円や中国人民元、インドルピー、韓国ウォン、タイバーツ等のアジア通貨を加重平均した『アジア通貨バスケット』を作って運営していく構想なのだが、私の恩師である増田俊男氏が主張するように、アジア共同市場を構築するに当たっては、まず円を基軸通貨に統一して、人民元はペッグ制を維持したまま参加してもらうのも、なかなか面白いと思う。
やはり中国経済の最大のリスクは人民元の「変動制」への移行である。いまのところ中国のGDPの拡大を支えているのは「低い賃金」と「安い人民元」なのである。この安い人民元が「変動制」に変わってしまったら、それこそアメリカのドル基軸体制がくずれるとすべてが崩壊してしまうように、中国も同じベクトルを辿ってしまう可能性が高いように思う。人民元が「変動制」に移行することになれば、まちがいなく経済のバブルは破裂し、世界中から集まってきている外国の資金とノウハウがあっというまに中国から逃げ出してしまう。人民元のドルペッグ制の廃止は、それだけ今の中国にとってリスクがあるのである。だから日本は、中国のために、アジア共同市場のなかでペッグ制を維持できるものにしなければならない。
日本がアジア共同市場でとる積極的イニシアティブは、ユーロで開いた穴を、アジアで救うと同時に、「反日教育」を国民に対して行なって実際以上に大きく見せようとしている中国をも救うものでなければならない。もし日本に独自の思想があるとしたら、それは海に囲まれることによって育まれたおおらかな『和』の精神のような気がする。不思議で独特の『和』の思想を持つ極東の「日のいずる国」だけが、アメリカを救うと同時に、中国をも救える可能性が高い。
本当のところは、周辺の国はいずれも、台湾も韓国も中国もロシアも、朝鮮半島や台湾海域で新たな戦争が起きるのを見たくもないし、必要ともしていないのだ。もう一度戦争を始めようと考えている国は、たったひとつ、アメリカだけである。だからこそ東アジアを「分割統治」して、いつもの伝統的な手法で周辺の国々が反目し合うように仕組んでいるわけなのである。
《主な参考文献および記事》
(本記事をまとめるにあたり、次のような文献および記事を参照しました。ここに、それらを列記して、著者に感謝と敬意を表すると共に、読者の皆様の理解の手助けになることを願います。)
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アメリカの中東攻撃と米中間の亀裂増大 江田島孔明
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戦略なき究極の八方美人、「和」のシーパワー国家日本
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暴力亭主アメリカを甘やかし続ける貞淑な妻日本
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アジア共通通貨と日本のプレゼンス
★ 「正常化」する
日本人の中国観 平成16年8月9日発行 国際派時事コラム
★ 力の意志 9 2004 No.54 World Anatomy 増田俊男 編集主幹
★ 宮崎正弘の国際ニュース・早読み」さらば中国幻想、こんにちはインド
親日の強力な”友邦”に目を向けよ(2004)8月8日
『終』
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