見えない軍隊とその戦場 3
No.38【2004年6月17日】
電力自由化をめぐる怪しげな戦略
ブッシュ政権のネオコン的な戦略が、いま一気に不安定になってきている。その流れのせいで、小泉政権を操るアメリカ金融勢力に資金的な余裕がほとんどなくなってきたために、日本の「占領」と「破壊」を急速に加速し始めている。アメリカに奴隷のように従順である小泉純一郎や竹中金融担当相が政権を動かしている今のうちに、「郵便貯金」や「高速道路」や「テーマパーク」だけじゃなく、いよいよモノづくり国家日本の本丸である「トヨタ」と産業の血液である「電力会社」等の略奪戦略に動き始めたようである。そこで、電力自由化をめぐる海外での物語に少しだけ触れておきたい。
1998年
4月10日、電力会社のサザン・カンパニー傘下のガルフ・パワー・ユニット社の上席副社長、ジェイコブ・ホートンは、会社の不正経理と地元政治家との癒着について、役員会と対決するために社用機に乗ったのだが、離陸数分後に爆発する。そしてその日のうちに、警察に匿名の電話が入った。「ガルフ・パワー・ユニット社の捜査を止めるなら、今のうちだぞ」
それから2000年、サンフランシスコの灯りが消えた。おかげで電力卸売価格は数日で70倍に暴騰し、サンフランシスコの電力会社は破産を申請した。ブッシュ大統領就任後3日もたたないうちにエネルギー省は、クリントンが12月に法制化したばかりの「価格つり上げ規制」と「不当利益規制」を、副大統領に選ばれて間もないディック・チェイニーのアドバイスに従って撤廃してしまったのだ。
サザン・カンパニーが6100万ドルにもなる、実際には使われてもいない部品代を顧客に負担させた手口に関する電子データを、度胸ではマイケル・ムーアにも劣らない調査報道記者グレッグ・バラストが手に入れた。在庫となっている部品は、本来「資産勘定」に計上しなければならないのに、実際には部品は「支出」として計上され、不思議なことに取り付け済みとして処理されており、その額はもちろん契約者に請求されていた。ひとつの口座から別の口座に金を移して国税庁の目をごまかし、何百万人もの契約者が「水増し」請求されていたという。
ジェイコブ・ホートンがなくなった直後、アトランタではサザン・カンパニーのジョージア支社を、部品に関する経理操作の件で告発するべく、大陪審が開かれることになったが、当時のブッシュ・パパ政権下の司法省は、不思議なやり方で州の検察官に起訴を取り下げさせた。そしてその理由は、そのひとつひとつの手順はあの立派な監査法人、アーサー・アンダーサン・コンサルティングによって承認されていたではないか、ということなのである。
亡くなったホートンはアトランタで米連邦検事に会う予定だった。何故ならサザン社が傘下の鉱山会社から山のように買った石炭の代金を消費者に払わせていることについて、話すことがたくさんあったからである。たとえば石炭を積んだ貨車は、時として石炭ではなくただの石ころを満載していたというような話である。
1990年代まで、アメリカの各州政府は、これらの独占企業の収益を厳しく監督していた。アメリカの古くからの規制システムは、公聴会と公開された記録にもとづく、世界にも稀な民主的なものだった。これは、すなわち武器を手にして立ち上がった怒れる農民運動の戦いの遺産であり、世界でもっとも安価な、最も信頼できる電力サービス・インフラの始まりだった。
1933年、フランクリン・ルーズベルト大統領は、最後の電力マフィア、サミュエル・インスルを徹底的に追いつめる。彼の電気信託会社は、やはり不正に操作された捏造帳簿、水増し株等々のインチキと独占の巣窟だった。ルーズベルトは、インスルとその同類等を「公益企業持ち株会社法」、「連邦電力法」で攻撃することで、電力・ガス・電話・水道会社に対して公共の利益に反しないよう規制でガッチリと囲い込んだのだ。
つまり、「料金」にも「利益」にも上限が定められ、どんな小さな資産も計上しなければならず、株や債券の発行にも政府の許可が要るように配慮した。もちろんオフショアやオフブックの子会社は禁止であり、「電気」は法の力によって安定的に供給され続けなければならない。価格のつり上げを目的とした恐喝まがいの停電などもってのほかである。そしてこれらの公共的なインフラ企業からの政治献金は、「政党宛」だろうが「政治家宛」だろうが、いっさいルーズベルトは禁じたのだ。このルールは約半世紀のあいだ守られた。
ジェイコブ・ホートンの死後、その後任CEOのダルバーグが、サザン社を規制と財政上の苦しみから救い出すために、ユニークな方法を考えだした。ようするに、法律を彼の会社の計画にそった形に変えてしまう大胆な方法である。その大胆な手法は、破産同然の田舎企業を一気に地球全体の電気を支配させると同時に、彼の会社から財政的に圧迫していた面倒な規制のすべてを、この地球上から見事に解き放ってくれたのである。だからカリフォルニアの大停電は、この会社の成功物語の途上で偶然に起きたちょっとした「幸運のアクシデント」に過ぎなかったのである。そして2004年現在、サザン・カンパニーはアメリカ最大の電力会社になっている。
アメリカのメディアは、ようやく多くのアメリカ企業で実践されているこのインチキな会計手法に気がつきつつある。この怪しげな手法は、ルーズベルト大統領がつくった規制と公益企業の会計ルールである「統一的会計準則」をとっぱらってしまおうとするブッシュ・パパによって計画され、1992年、「電力規制緩和」が議決された。ブッシュ・パパにたっぷりと政治献金し電力の規制緩和をおねだりすることで、ルーズベルト大統領の「公益企業持ち株会社法」をズタズタに切り裂いて、その独自の監視システムを骨抜きにしてしまったのである。
1970年代、テキサス大学で学んでいた若きイギリス人、スティーブンはある構想を思いついた。つまり「電力の自由化市場」を作るという構想である。そしてこのウェイカム卿の囁きにサッチャーは耳を貸したのである。ウェイカムはサッチャー政権のエネルギー層を務めていて、世界初の「電力卸売り」発電所を認可した。この発電所の所有者こそ、1985年に設立されたばかりの企業エンロン社だった。この決定が意味するものは、世界に先駆けて発電所の所有者が、市場の耐えられる限りの価格を、もっと言うなら耐えられない価格でも、自由に設定することが出来るようになったということである。
エンロンとの取引に続いてウェイカムは、サッチャーに国内の発電所や電力小売会社を、電線から変電所まですべて売り払うように説得した。「イングランド・ウェールズ・プール」というキロワット単位で電力を売り買いする取引所を設立することで、国民に売る電力料金は、自由市場の原理にもとづいて決められるはずだった。確かに紙の上では、その方式はアカデミックな美しさを十分に備えていた。新たに生まれた民間発電業者たちが日々しのぎを削ることによって、「電力料金」は安くなるはずだった。しかし現実には、電力プール制度は業界が談合や価格のつり上げを行なうゲームの「場」となり、消費者からありとあらゆる手の込んだ方法で金をしぼりとるための「場」となった。電力の価格は跳ね上がり、発電所の所有者たちは、一夜にしてその資産収益を数倍に増えるのを目の当たりにした。
トニー・ブレア新政権は最初、アメリカからの入植者に対して渋い顔をしていたが、結局のところエンロン社とエンタジー社に新たな発電所の建設を許可した。どうやら、それがホワイトハウスのクリントン夫婦からの特別のリクエストだったようである。イギリスに上陸、占領したアメリカの「電力詐欺師」たち、サザン・カンパニーとエンロン、リライアント・エナジー等に率いられた連中は、1988年までにすべての大陸の発電会社と電力小売会社を掌中に治めてしまっていた。
そして電力業界のロビイストたちはサッチャー夫人の教授たちを連れて、ほとんど死にかけた自由市場というインチキを、ついにカリフォルニアに持ち込んだのである。久々の公益企業からの政治献金に喜んだカリフォルニア州議会は、それまでクリーンで手ごろな価格を提供してきた「エネルギー規制制度」を、あっさりと手放してしまったのである。電力マフィアたちがカリフォルニアで駆使した手法は、すべてイギリスでリハーサルずみだった。もちろん役者の顔ぶれもすべて同じだった。
そんなわけでカリフォルニアがもっとも暑い日に、停電が起きても、州はそれほど驚かなかったようである。小規模発電所の所有者たちは、カリフォルニア州の電力制度を人質にして好きなように値をつけ、好きな価格で電力を売った。その結果、規制前の価格30ドルの300倍の価格で取引されるようになってしまった。
物質資本主義社会に於いて、基本的には、人の不幸は誰かの儲けなのである。その誰かがエンロン社のケネス・レイやリライアント社のスティーブ・レットベターになる場合は、結局のところ、共和党政権に政治献金として、再び還流してくる仕組みになっていた。
景気回復の名のもとに再び始まる金融大手術
そういったグローバルな流れをまず頭の中に入れた上で、いま小泉純一郎が「構造改革」の名のもとにやろうとしていることをいま一度客観的に眺めてみるなら、何のことはない小泉純一郎のやろうとしていることは、まさにこのグローバルな詐欺手法と瓜二つなのである。
「民営化」や「規制緩和」や「金融ビッグバン」や「市場経済」や「小さな政府」という仕組みは、すべて一握りのグローバリストである国際金融勢力という詐欺師たちが、アメをつかって世界から欲しいものを法に触れずに略奪するソフトパワー戦略であったということが、先ほどの電力自由化物語によって日本人である私たちの目にも、幾らか見えてくるはずである。
「郵政民営化」や「道路公団民営化」の流れが、まるで良いことのように語られているが、本当はその正反対で、とても恐ろしい流れである。そして最近の政府による景気回復リークにしても、本当は全然国内や地方の景気が回復していないのに、大手マスコミや御用学者を操って小泉政権による「財政支出なき景気回復」に成功したように見せかけている。そして「景気が回復した」を根拠に、竹中金融担当相と元日銀マンの木村剛がタッグを組んでもう一度不良債権処理を加速させることで、UFJやみずほ銀行をハゲタカ・ファンドに乗っ取らせようと企んでいる。
このことは、もはや政界の情報筋のあいだでは秘密でもなんでもない流れである。おそらく日銀の福井総裁は、国際金融勢力の意向にあわせて、実際には景気が回復していないのに、信用創造をしないで金融引き締めたまま、年末の頃には「公定歩合引き上げ」に動く可能性が高くなってきている。
これは本当に大変なことである。UFJやみずほ銀行が乗っ取られる過程で、当然全国に散らばる多くの中小企業や下請企業が切り捨てられることになる。その結果として、当然自殺者が続出することになる。いまでさえ日本の自殺者数は、先進国のなかでロシアについで世界第2位なってしまっているのに、である。これらのことを最近の主要メディアはほとんど語らないし、はっきり言って、とても残酷な社会になりつつあるのだ。
国際金融勢力による「トヨタ」と「電力会社」の乗っ取り計画
もちろん国際金融勢力たちの狙いは、そんな風な中小企業にあるのではない。彼らの狙いは物つくり国家の象徴ともいえる「トヨタ」の乗っ取りであり、日本政府のインフラである「電力」を始めとするライフ・ライン関連会社を乗っ取ろうとしているのである。アメリカに追従する小泉政権、そのスタッフである竹中金融相、日銀福井総裁、ヘッジファンドの切り込み隊長の木村剛、経産省のエリート官僚等々を国際金融勢力が巧みに操り手なずけることで、「電気」や「通信」や「高速道路」や「郵便貯金」が乗っ取られようとしている。
そのために、またもや「不良債権処理」を加速させて「UFJ」や「みずほ銀行」を戦略的に追い込もうとしているのである。そして「トヨタ」を支配するために、中部地方の自動車部品メーカーを徹底的に安く買占めにかかっているようである。なぜなら、UFJを握ってしまえば、トヨタの「企業秘密」や「部品メーカー」をGMを始めとする米自動車連合が、今度こそ強敵であるトヨタを窮地に追い込むことが可能となるからだ。不思議なことに、ここでも日本のジャーナリズムは何も語ろうとしない。もしかしたら今の日本は、金正日率いる北朝鮮とまったく同類の全体主義国家なのか。
加速される日本占領
近い将来「電気料金」や「水道料金」や携帯等の「通信料金」等が、ほんの一握りの国際金融勢力によって好きな値段をつけられるようになってしまったら、それこそ「目に見えるイラク占領」と、ある意味で似たりよったりの「目に見えない日本占領」の完了ということになってしまうのだ。それはアメリカ合衆国の51番目の州になってしまうという甘っちょろいものじゃなくて、もろにバクダッドにあるアブグレイブ刑務所に象徴されるような「占領された奴隷国家」になってしまうことである。
そんな具合に国民の「財産」と「安全」と「自尊」を守れない国家なんて、それはもはや国家なんてものじゃなくなってくる。そんな国家の抜け殻のなかで、私たち国民が「どう人生設計を描くか」なんて、もはやコメディ以外の何物でもなくなってしまう。
いったい日本の政治家や官僚やジャーナリズムは、何をそんなに恐れているのだ。貪欲なエゴイズムの塊であるブッシュ政権は、ある意味で最も分かりやすい幼稚な政権でもあるわけだから、目の前に美味しいニンジンをいつもぶら下げてやることで、好きなように目的地まで走らせることも出来るはずなのである。国際金融勢力の留まることを知らない貪欲さを、逆に利用できる「度胸」と日本民族に受け継がれた「古来からの知恵」を発揮できる政治家や官僚が、いまなぜ存在しなくなってしまったのか。
そういった流れから俯瞰すると、マイケル・ムーアや森田実さんは、アメリカや日本の民主主義にとって、なくてはならない存在といえる。
《主な参考文献および記事》
(本記事をまとめるにあたり、次のような文献および記事を参照しました。ここに、それらを列記して、著者に感謝と敬意を表すると共に、読者の皆様の理解の手助けになることを願います。)
★ 金で買えるアメリカ民主主義 グレッグ・バラスト (角川文庫 2004)
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見えない軍隊とその戦場 2
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見えない軍隊とその戦場
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エゴは鏡に映った「影」である
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Q君への手紙(7)――『公共事業論』を書き終えて
コラムニスト 森田実
『終』
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