アジア共通通貨と日本のプレゼンス
No.33【2004年5月4日】
新たなEU25カ国体制と反米感情
欧州連合が(EU)が25カ国体制に拡大した初日の5月1日、議長国アイルランドのアバーン首相はダブリンで記者会見し「第一の仕事は、EU憲法をまとめることだ」と述べ、ロシア等の旧ソ連の国々との協調を呼びかけた。新たに加盟したポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、エストニア、ラトビア、リトアニア、キプロス、マルタを含む25カ国の首脳がダブリンに集まり、大統領公邸で華やかに記念式典が行なわれた。10カ国の同時加盟は半世紀以上に及ぶ欧州統合史上、最大となる。
拡大後のEUは、人口4億5000万人の巨大市場を背景に、域内総生産(GDP、2003年)が9兆7310億ユーロとなり、アメリカの9兆7130億ユーロ(EU統計局調べ)と並ぶ規模になる。単一市場に属する新規加盟国の関税や通関手続き等は域内では原則撤廃され、貿易や投資が円滑化されるために、労働コストなどが低い中・東欧諸国は生産拠点として重要性を高める流れになる。ようするに、アメリカにとってなんとしても阻止したかった流れである。
その一方では抜群のタイミングで、イラクの米軍兵士がバクダッド郊外の監獄に拘置しているイラク人を虐待する写真がテレビで大々的に報道され、大きな波紋を広げている。4月28日に米CBSテレビが証拠写真を放映。同じ写真が30日、英国BBCやアラビヤ語衛星テレビのアルジャジーラ、アルアラビヤでも流れた。放映された写真は数種類で、数人のイラク男性が裸で重なり合って性的なポーズを取らされているものや、イラク人男性が手に針金を結ばれて箱の上に直立不動で立たされ、箱から落ちたら針金に電流が流れると脅されている等がある。(
参考映像
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イラク駐留米軍によるイラク人虐待問題に絡み、米軍が今年2月に内部報告書をまとめていたことが2日、わかった。米中央情報局(CIA)等の意向を背景に、虐待が組織的、日常的に行なわれていた実態が描かれている。「ごく少数の者による行為」としたブッシュ大統領の弁明とは大きな食い違いがあり、アメリカへの不信感を増幅させることになりそうだと伝えている。その報告書によると、裸の拘留者に冷水や化学物質をかけたり、ほうきの枝を使った殴打や性的暴行や軍用犬をけしかけた例等が列記され、とくに昨年の10月から12月のあいだに多くの露骨な虐待が集中したとしている。(
参考記事
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ヨーロッパの今後の戦略として、アメリカへの反感を徹底的に煽ることで、EUをひとつに統一してアメリカドル基軸体制に挑戦していこうと企んでいるところがあるから、今回の虐待報道は、もしかしたらヨーロッパ系のメディアからのリークである可能性が高い。新たに10カ国が正式加盟した今こそ、反米感情を煽る願ってもないタイミングといえるからである。もとはといえば、イラクにアメリカが先制攻撃をしてまでイラク戦争を始めなければならなくなったのは、EUのリーダーシップを取るシラク仏大統領のせいなのである。
イラク戦争が起きた本当の理由は、サダム・フセインが、シラク大統領が進めるユーロを基軸通貨にするための戦略に巻き込まれてしまったからなのだ。2000年にフセインは、イラク産の石油の販売代金をすべてユーロで決済する、とシラクに対して約束してしまったのである。これはアメリカにとって何よりも衝撃的なことだったのである。
日本よ、究極の先進国たれ 2
No.28 【2004年
3 月
27 日】
のコラムでも書いたように、アメリカにとってドル基軸通貨体制が揺らぐことは、覇権国としての「終わり」を意味する。ドルが基軸通貨でなくなってしまったら、様々な国に累積する赤字を支払わなければならなくなる。そんなこと今のアメリカに出来っこない。アメリカはドル基軸通貨であることをいいことに、世界からいいようにお金を巻き上げてきていた。
どんなに対外債務が累積しても、輪転機を回してドルを印刷すればそれで済んだのです。基軸通貨であるということは、経済的に信じられないくらいのメリットがある。仮に大量にドルを刷りすぎて「ドルの価値」が下がったとしても、その分だけ他国に対するアメリカの借金が帳消しになるというわけである。それまでの他国の国民の汗や企業努力が、為替の変動であっという間に消滅してしまうことになる。
そんな風な自国の都合のみでマネーサプライを勝手に増減させるやり方に、ヨーロッパは、ついに挑戦する決意を固めたのである。近い将来には、世界の半分がユーロになる可能性もないとはいえない。それ故に、アメリカは先制攻撃も辞さなかったのだ。ユーロの誕生は、石油の利権確保以上にアメリカのドル基軸体制にとって致命的な問題といえる。だからヨーロッパの統合に対して、あらゆる無理難題をぶつけて「古いヨーロッパ」と「新しいヨーロッパ」を意図的に振り分けて、なんとしてもヨーロッパを分断させようと企んできたわけなのだ。
ということは、この新たなヨーロッパとアメリカという対立軸を創造することで、国際金融勢力の中に喜ぶ者も、当然存在することになる。世の中の構図は決して奇麗事で動いてはいない。いま世界のなかでアメリカと敵対する国はなかなかいないから、自ら敵を作らなければいけない連中がいるのだ。もちろん彼らの正体は軍需産業であり、彼らと取引している金融機関でもある。彼らは、冷戦後の新たなる「混乱」を創造してくれる強敵、「ヨーロッパ合衆国」を何としても作りたかったのである。
まずお金を統一して中央銀行をひとつにしてから、今後は議会を統一して、ひとりの大統領を選んで政治的統一をはかる。そしていよいよ軍隊も統一されることになる。その過程で軍事衝突が起こり、イラク攻撃に関する態度の違いがより鮮明になることで、NATOはもうやめようよ、ということになる。そうなれば政治レベルでヨーロッパとアメリカの衝突が明確になり、一部の国際金融勢力の狙いどおり武器が必要となる。
武器は高価なものだから、莫大な借金をしなければならなくなる。戦争は、銀行家や金融勢力にとって稼ぎ時となる。それ故に国際金融勢力にとってブッシュ政権ほどありがたい政権はないのである。つまりブッシュが再選される可能性が高い理由が、ここにあるといえる。しかし今回はこの話にこれ以上は触れない。
今こそアジア共通通貨復活のベストタイミング
ヨーロッパ経済圏が確立し、圏内のすべてにおいてゆくゆくはユーロを発行して、しだいにドルを排除していく流れに確実に動いている。もちろんアメリカは窮地に落ち込むことになる。しかしこのタイミングは、考えようによっては、日本には最大のチャンスになると思う。ユーロがあけた穴を、アジア圏で埋められるように、日本が中心となって、ドルでもなく円でもないバスケットタイプのアジア通貨単位(ACU)を作って、アメリカ対策としての、アジア共通通貨構想を旗揚げすればいいと思うのだ。え、何?そんなことは到底無理だって…?
確かに、最初にアジア危機が発生したタイが、日本に助けを求めてやってきた時、日本が救済することはままならない、とIMFがストップをかけてきた経緯が過去にはある。これはIMF経由でやらなければならない、と主張してきたのだ。そして危機に陥ってしまってから、当時の大蔵省財務官榊原英資氏が「アジア通貨基金(AMF)を設立しましょう」と提案したら、それも「駄目」と反対されてしまったのだ。
何故なら、日本が助けてしまったら、タイは危機に陥らなくなってしまう。そんなことになったら、予定どおりアメリカの資本が入れなくなってしまう。タイが不況にならないと、大手企業が倒産しない。ハゲタカファンドも入れない。だから、榊原氏はIMFに反対されたのだ。もしその段階でAMF(アジア通貨基金)を導入していたなら、日本のアジアに対する力は相当に大きなものになっていたにちがいない故に、きっぱりと否定されたのだ。危機のおかげで、アメリカの資本は、タイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシア、香港にも、今は入ることができてしまったのだ。まさに何処かで見た風景そのものである。 ふぅ、まいったね。
つまり、あの時と今では国際金融勢力にとって状況がまるで変わってしまっているのだ。そしてヨーロッパとアメリカが明確な対立軸になった今、積極的にアジア通貨統合に向けて日本が動くことは、ユーロでぽっかり空いてしまったアメリカドル基軸体制を救済するために、国際金融勢力のエージェントとして、あくまで反EUとしてのアジア共同市場を一気に実現してしまえばいいわけである。
ここで一番大事なことは、あくまでアメリカ救済のためのアジア共通通貨市場である。日本のプレゼンスは、できうる限り抑えて動くことが肝心である。できてしまえば、後は徐々にアメリカを切っていけばいいのである。
2002年アジア・ボンド・ファンドを提唱したタイのタクシン首相は、当初、共通通貨建ての債権市場を言っていたようなのだが、いつのまにかドル建てという話に変わっている。タイはIMFから融資を受けているから、おそらくアメリカの圧力を受けたにちがいない。アメリカはヨーロッパで失った分を、何とかアジアで取り返したいのである。そして日の出の勢いである中国はいま、外貨準備の半分をユーロにすると堂々と公言している。さすがに中国は、そうやすやすとアメリカのコントロール下には入らないのだ。
日本の未来戦略にとって、中国は、アメリカに対する最高のカウンターバランスになるような気がする。ロシアがEUと歩調を合わせてしまっている以上、アメリカにとって中国の存在はとても大きく、少なくとも経済的にはEU側についてもらったら大変なことになるのだ。だからアメリカは、中国にはかなり気を使っているように見える。
例えばパキスタンの「原爆の父」であるカーン博士を尋問した結果、彼が核の技術を北朝鮮、リビア、イラン等に売っていたことが最近メディアでも騒がれて問題になったことはまだ記憶に新しいが、これは、中国がパキスタンを使って転売させたものである可能性が高い。それにもかかわらず、不思議なことに、ブッシュは何も言わず不問に付したのである。本来ならブッシュ政権は絶対に黙っていないはずである。
その上パキスタンのムシャラフも不問に付したのである。「核拡散はカーン博士の責任であり、ムシャラフは知らなかった」という誰が考えても見え透いたウソを、ブッシュは受け入れたのである。一応表向きではビンラディンがパキスタン国境に隠れていて、彼を逮捕するのに、ムシャラフの応援が不可欠であるからということになっているが、どうも私はそれだけじゃない気がする。パキスタン、インド、中国を含めたアジアの中枢部(石油とそのパイプラインに最も関連した地域)を、今ブッシュは敵にまわしたくないと考えているような気がするのだ。
今後の経済発展に最も重要な石油の調達ルートを、アメリカユーラシア戦略によって完全に封じ込められてしまっている中国にとって、アメリカはやはり敵なのである。最強のハイテク軍事力を持ったアメリカは、中国の目の上のたんこぶであることは間違いないといえる。だとしたら日本は、中国は中国らしい立場をとることを同じアジア人として煽り、一方アメリカに対しては、中国の反アメリカ思想を強調するぐらいのポジションで戦略的に接していけばいい、と私は考える。理想論だけでは現実は決して進まないからだ。
マレーシアのマハティール首相を除いたアジアの国々は、はっきり言ってしまえば、アメリカにおんぶに抱っこである。だからユーロのようなドルに対抗するための政治的動きは、今後もほとんど期待できないように思う。しかし、このままではアジアの未来は永遠にない。
だからこそアメリカを救うために、「アジア太平洋共通通貨論」他多数で近藤健彦氏(立命館アジア太平洋大学教授)が述べておられるように、日本は沖縄の金融特区をアジアの金融センターにして、政府公認のオフショアにするというプランに、私も諸手を挙げて大賛成である。(
参考記事
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オフショアで有名なバハマやバミューダなどを利用するより、日本の法律が適用されている沖縄のほうが、はるかに安心感が持てる。しかし金融特区というからには、香港に勝たないと意味がないと思うから、税金は思い切ってゼロにしたほうがいいと思う。近藤氏が提案されるように、沖縄をオフショアにして、アジアの共通通貨(ACU)案を、米ドル、人民元、日本円、韓国ウォン、タイバーツの5通貨でバスケットを構成することで、単一通貨よりレートの変動幅をなだらかにして、為替リスクを軽減させる。
もちろんドルをバスケットに含めることは、アメリカの経済を救うという「大儀」のためにも、またマーケットの信頼のためにも必要になる。また成長著しい中国の人民元を、反アメリカを強調することでうまく取り込んで沖縄金融オフショアに活力を吹き込むことに成功すれば、結果的に円の国際的なプレゼンスも上がっていくにちがいないのだ。確かにヘッジファンドのファンド・マネジャーもうまく抱き込んで、万が一アメリカとの対立が強くなった場合に備えて、いざとなったらドル売りを浴びせて脅かせる体制を作っておくプランも悪くないかもしれない…。
阿部晋三と冬柴鉄三の両幹事長のアメリカ参拝
4月29日に安部晋三自民党幹事長は、ワシントン市内のネオコン系シンクタンクであるアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所で講演し、「昨年の総選挙で『護憲勢力』が衰退した結果、改憲がようやく現実のものとして議論されるようになった」と憲法改正の実現に強い意欲を示すと同時に、集団的自衛権を認めない現行の憲法解釈について、「国内向けの理由では世界に通用しない。政府の解釈はいろんな面で限界にきている」と集団的自衛権の行使を認める憲法改正が必要であると主張した。
そしてイラク戦争については、米国を支持した小泉首相の姿勢を「同盟の神髄」と表現し、イラクへの自衛隊派遣の意義を「日米同盟は単なる『紙』ではなく、安保条約に裏打ちされた強い絆で結ばれていることを実証した」と強調した。さらに付け加えて「サダム・フセインが大量破壊兵器を持っていたと疑うのはきわめて合理的」と語り、「『国益』のために真面目に議論する人をタカ派と呼ぶなら、私はタカ派と呼んでもらいたい」と言い切った。(
参考記事
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ネオコンの本拠地で、安部自民党幹事長は自らネオコンに擦り寄るような発言をして、ネオコンたちに認めてもらおうとしている。そんな風な『日本の国益』から推測すると、今回のイラク邦人人質3人が日本に帰ってきて「英雄扱い」されたとしたら、何よりも都合が悪いはずである。まず基本に戻って考えるなら、「人質バッシング」が起きたことで、一番得をしたのは誰かということである。
もちろん今回の人質になった3人のリスク管理が多少甘く、例えばバクダットに向かうにしても、戦闘地域になっているファルージャを迂回するルートを検討できなかったものか、と私も思う。しかし彼らの無謀さを「自己責任のなさ」と批難するよりは、「占領軍に加担する日本政府」とは別の立場の日本人が存在することを、イスラム社会及び世界に知らしめることは、それ自体マクロ的な視野での日本民族全体のリスクヘッジとなって、大きな流れでの「日本の国益」にも適うはずなのである。
「北朝鮮の脅威」を煽って得をするのは誰?
同じように北朝鮮の核開発問題をめぐる6者協議と「日本人拉致問題」にしても、基本に戻って考えれば、すぐ分かることである。「北朝鮮の脅威」を煽って得をするのは誰かということである。はっきり言って北朝鮮の脅威なんてもともと存在していないし、仮に多少の脅威があったにしても、日本に大きな利権のあるロシアや中国が北朝鮮の暴走を許すはずがないのである。日本にミサイル防衛システムを何としても売りつけたいゆえの、誰かさんによる見えみえの「脅威の演出」なのである。
そのために北朝鮮は「悪の枢軸」のひとつに指定され、経済的に封じ込められているのである。アメリカによる北朝鮮核脅威論に振り回されないで、小泉総理や外務省は、日本人5人を一時帰国させて北朝鮮に花を持たせれば、間違いなくこの拉致問題は解決するはずなのである。
また北朝鮮・平安北道竜川(リョンチョン)で起きた列車追突爆発事故も、これらの流れと関連して起きた事件のように私は思う。いつになく直ぐに外の世界に救助を求めたことも、この「北朝鮮の脅威」によって封じ込められてしまった「閉ざされた状況」から何とか逃れようとして、金正日が起した苦肉の抵抗戦略のように思えるのだ。
《主な参考文献および記事》
(本記事をまとめるにあたり、次のような文献および記事を参照しました。ここに、それらを列記して、著者に感謝と敬意を表すると共に、読者の皆様の理解の手助けになることを願います。)
★ なぜ日本経済は殺されたのか 吉川元忠・リチャード・A・ヴェルナー共著 (講談社 2003)
★ 力の意思 2003年10月号 沖縄の金融センター化がアジア通貨創設の突破口になる 近藤健彦×増田俊男 サンラ出版
★ X−FILES 政府らによる恐怖と洗脳の世界 P2
http://atfox.hp.infoseek.co.jp/xfile/2004/020.htm
『終』
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