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見えない軍隊とその戦場 2 No.322004年4月25日

無視された前川リポート

ようやくこの春から日本の景気が回復し始めたようである。私は、昨年の12月16日のコラムNo.12の中の副題“ 小泉構造改革とは超カースト社会の実現 ”で、3月に予定されている「新生銀行の上場」が予定されているから、たぶん、その頃から景気が上向く可能性が高いと思う、と予言した。どうやら中国の急激な経済成長のお陰もあって、その流れ通りになりそうである。

ということは、国際金融勢力による10年以上にもわたる意図的な不況創造によって、日本の経済構造を都合のいいように改造し、かつバブル後に激しく暴落した土地や株を買占め、御用学者を使って不良債権処理を強引に煽ることで、めぼしい銀行や保険会社等を、国際金融勢力はまんまと手に入れてしまったということにもなる。

これは国際金融勢力という目に見えない軍隊による「経済テロ」であったのであり、その戦場は、イラクでもパレスチナでもアフガンでもなく、この日本だった。国際金融勢力に操られた小泉構造改革と日銀による信用統制タイプの「デフレ地雷」によって、1年で3万2000人以上の戦死者と、2年間で196万人の負傷者を出したのである。ようするに私たちは、見えない軍隊による最大規模の「見えない戦場」の長期にわたる犠牲者だったのである。

つまり、青い目の「見えない軍隊」に日本経済を占領してもらうために、先ず日銀はバブルを起して国民や経営者を油断させておいてから、一気にバブルを破裂させて「危機」を創り上げたのである。「危機」や「混乱」がなければ、均一で申し分ない日本的経営を根本から構造改革して、国際金融勢力の都合のよい「略奪」が成り立たなかったからである。

しかし、どうしてこんなにも長いあいだ不況が続いたのだろうか。それは、誰かが日本的経営を破壊し乗っ取るのに時間を要したからである。「経済危機」という長期にわたる時限爆弾によってはじめて「構造改革」が現実としての意味を持ち、それなりの説得力を持ったのである。円高不況で苦しむ最中、日銀総裁の前川春雄氏が1986年に「国際協調のための経済構造調整研究会」を立ち上げ、その報告書を中曽根首相に手渡した。それがあの有名な「前川レポート」である。

前川は、古くから国際的な流れの中に身をおいていた。日銀の外国為替局次長であった頃、アメリカの連邦準備制度理事会と定期的に接触していた。その後、1958年〜60年まで日銀ニューヨーク駐在参事を務めている。そしてと今日の日本橋にある本社に戻った後、前川は外国為替局長に昇進した。そして最初は副総裁として、さらに総裁として日本を10年支配するまでのあいだ、前川は、理事として定期的に国際通貨基金(IMF)や国際決済銀行(BIS)の会合に出席していたのである。

「前川レポート」に目を通してみてまず感じることは、小泉純一郎の唱えている「小泉構造改革」 とほぼ瓜二つであるということである。小泉の熱弁する構造改革は、「前川レポート」のコピーそのものなのである。簡単に要約すると、市場原理中心の経済構造に移行して、アメリカの言うグローバル・スタンダードに追随していかなければならない、ということである。そして問題の先送りは許されない、と念を押すように述べられている。何もかもが小泉純一郎が繰り返し述べている「構造改革なくして景気回復なし」のセリフとダブっているのである。どうやらすべての「謎」はここにあるようである。

公表された前川レポートは、当時もいまも日銀内部では「十年改革」と呼ばれているという。要するに日本改造に最低10年はかかると見積もられていたということである。日銀お得意の「裏技」である「窓口指導」によって貸出割り当てを縮小し、景気後退による危機を起してもいいのだが、それでは幾分見えみえすぎる。ならば、それよりももっと効果的で、見破られにくい劇的な方法を仕掛けたのである。

つまり、貸し渋りの正反対の「バブル」を、自ら仕組んだのである。お金の蛇口をいっぱいに開いて日本中にお金を密かにばら撒いたのである。政治家や経営者や不動産屋は、好きなだけお金を借りられたし、買った土地や株やゴルフ会員権はどんどん値上がりしたし、官界や政界の資本家たちも好景気のお陰で大喜びだった。資本家たちは誰一人として不満に思うものはいなかった。ギリシャ神話のミダス王は、願いがかなって、触れるものがすべて黄金に変わるようになる。それ故に、ミダス王は物質の本当の生の手触りを、もはや知ることができなくなる。

経済成長をはるかに上回った信用創造によるお金の蛇口を、彼らは、頃合をみて元栓を静かに締めた。次の瞬間、バブルははじけた。行き過ぎた過剰に比例して不良債権が蔓延した。もちろんこの景気下降も完璧にコントロールされたものだったから、アメリカの傀儡である小泉首相は、この「デフレ地雷」による「破壊」と「危機」を最大限に利用したのである。小泉内閣が誕生するときに大きな後ろ盾になったのは、レーガン大統領と「ロン、ヤス」と呼び合うくらいアメリカ贔屓だった中曽根元首相である。1987年に日銀の「裏技」による過剰信用創造で発生したバブルのせいで、中曽根首相の熱い思いとは裏腹に、前川レポートによる構造改革は、まったく実施することができなかったのである。

その失敗の教訓は、「景気が良くなったら、構造改革はできなくなる」ということである。中曽根氏は何回も小泉首相と会って、この教訓を伝えていたはずである。不況でみんなが苦しんでいるときでないと、痛みの伴う構造改革なんて振り向きもされないからである。そして小泉構造改革によるデフレが続けば続くほど、私たち国民の悲鳴とは裏腹に、富は一部の強者たちに集中する。

簡単にいうなら、デフレで資産の買占めがたやすくなった大金持ちと、雇用と所得の安定している公務員等の勝ち組サラリーマンたちである。とくに資本強者にとって、こんなに嬉しく美味しい時代はないのである。彼らが欲しいのは車や最新デジタル家電なんかじゃないのだ。いまやバブル期に造成されたゴルフ場の取引相場は、当時のほんの数%に過ぎないし、演歌歌手であると同時に不動産王でもある千昌夫がかつてバブル時に借金した2000億がもし現金であれば、ダイエーや西友のすべての株を買い占めてしまうことだって今は可能な時代なのだ。デフレのおかげで、同じ現金で買える土地や株は確実に増えている。現金を大量に持っている大金持ちが、この10年以上にわたるデフレ不況で、どんどん豊かになっている。

しかしそのことを主要メディアは決して語らない。このまま小泉構造改革である市場経済化の流れが止まらないなら、私たち国民の9割は確実に貧乏に向かって突き進んでいくことになる。構造改革やら市場原理やらを唱えて、資本強者たちが新しい日本の中で生き残るやり方をデザインしてみせているが、それらのすべては、私たち国民にとってインチキである。メディアの中で語る御用学者や資本強者たちは、決して本当のことを語らない。

はっきり言って、大金持ちは本当に金持ちになる方法など決して教えないし、金持ちは少なければ少ないほど、その資本強者としての価値が上がる。だからその論理と仕組みから考えても、皆が金持ちになれるはずがないのである。そんなことは決して現実ではありえないのだ。

資本強者であるマスコミがしてくれるのは、私たち庶民の「危機」や「不安」をやたら煽ることで、雑誌や本を巧みに売りつけ、何よりも視聴率を稼ぐことぐらいである。「勝ち組」或いは「お金持ちになる方法」という在りもしないビジネスモデルを喧伝することで、結局のところ商売のネタにしているに過ぎない。そんなものを読んで直ぐに金持ちになれるなら、すでに日本人のほとんどが金持ちになってしまっているはずである。 やれやれ

ハゲタカ・ファンドの“切り込み隊長木村剛”

いま小泉改革の周辺でうろついている御用学者で、竹中金融大臣以上に気をつけなければならないアメリカの傀儡は木村剛氏である。元日銀の出身でもあるKPMGファイナンシャル社長の木村剛氏は、2001年6月12日に自民党の経済産業部会で「緊急経済対策と不良債権問題」と題した資料を配布した。この資料の中には「緊急経済対策の死角」という表題がつけられた問題企業29社のリストが含まれていた。

木村氏の主張の大枠は、日本経済が低迷している最大の問題は、不良債権問題である。パイプの中に不良債権というゴミが詰まっていることが、日本経済の効果的な資源配分を妨げている。このゴミを取り除かない限り、日本経済の再生はない。そして現在、銀行は大手30社にリスクに見合った引当金を積んでいない。だから不良債権問題の核心である問題企業30社に対して銀行が十分な引当金を積むことができれば、不良債権問題に縛られて低迷してきた日本経済は復活の道を歩むことができるようになる、という具合である。

このインチキな木村理論は、自民党内部で、大手30社に銀行が引当金を積むだけで日本経済が再生するのであれば、これまでの厳しい経済状況に対する責任を取る必要もなくなるということで、平沼大臣を含む経済産業省幹部に強い賛同を得たという。もともと小泉首相は「不良債権処理の断行」を掲げていたから、木村理論は、小泉純一郎の琴線に触れることに見事に成功する。小泉首相は、貿易センター同時多発テロ事件を受けて、9月25日にブッシュ大統領に会うためにホワイトハウスを訪ねる。

「アメリカ経済はテロで大きな打撃を受けたが、経済安定のためにやれる政策はすべてやっている。日本も経済安定のために不良債権処理をぜひとも実行してほしい」と案の定ブッシュが要求する。それに対して小泉首相は「今後2,3年で処理する」と忠臣よろしく約束してしまう。この約束によって、日本経済のさらなる破壊が一気に進行することになったのである。

なぜなら問題企業に引当金を上積みすることこそ、何よりも貸し渋りを生み出すことになるからである。つまり、銀行はこの不況で株式の含み益をすでに持っていないから、引当金を上積みしようとしたら準備金を取り崩すしかない。ところがこの準備金というのは100%自己資本であるから、準備金を取り崩すと、その分だけ自己資本が減ってしまうのである。

この自己資本が減少すれば、BIS(国際決済銀行)規制を守るために、やむなく銀行は貸出を圧縮しなければならなくなる。それでもし銀行が資本不足に陥るようなら、木村理論によると、銀行に公的資金を投入すればよいということになる。そして公的資金を投入して銀行経営の健全性を維持しながら、不良債権処理を進めればよいということになる。

この木村理論は、はっきり言ってアメリカ・ハゲタカ・ファンドの意向そのもののように見える。2001年9月29日付けの日本経済新聞によると、大手30社の抱える債権は24兆円だという。これは2000年9月期の問題企業への融資総額150兆円の6分の1に過ぎない。そんな小さな額の不良債権にだけ引当金を積んでも、はっきり言って何の効果もないのだ。なのに、あえて木村理論ではこの30社に拘っているのは、この30社そのものに意味がある、としか考えられないことになる。

ようするにハゲタカ・ファンドにとって、たとえば富山の田舎の小規模な不良債権が売りに出ても何の意味もないのだ(笑)。あくまで彼らがほしいのは大都市にある商業施設とか賃貸しマンション等なのである。過剰債務を抱えている大手30社が持っているのは、まさにそうしたハゲタカにとってヨダレがでる美味しい「物件」なのである。9.11同時多発テロ以降、ブッシュ政権はブッシュ・ドクトリンによる「テロとの戦争」を全世界に宣言することで、アメリカ経済減速による市場からのリスク・マネーの逃避を力ずくで押さえ込んではいるが、本音はもっと高利回りが期待できるリスク・マネーの行き場を創らなければならないのである。

つまり2001年9月25日のブッシュ・小泉の首脳会談でテロ対策を話している際に、ブッシュ大統領は小泉純一郎に「アメリカのためにリスク・マネーの行き場を早く創ってほしい」と要求した可能性が高いのだ。つまりハゲタカにとって美味しいエサを早くつくれ、ということなのだ。どうやら死人の足を引っぱってでも確実に棺おけの中に入れろ、ということらしい。

御用学者や木村氏はデフレ不況が続く限り、引当金や公的資金をいくら積んでも、大手30社の不良債権がなくならないことをよく知り抜いているのだ。そういう意味で彼らは確信犯の「棺おけ送り込み人」たちなのだ。そして彼らは頃合をみてこう切り出すのだ。「やはり不良債権問題の解決は直接償却しかありえない。不良債権を整理回収機構に移して、最終処理をすべきだ」

そして今度はそれを受けるようにハゲタカたちはこう言うにちがいない。「整理回収機構に移したら、 2次損失が発生する可能性があります。それより我われに任してください。我われは企業再生のプロですから、国民負担なしで立派に再生させてみせます」。そういって彼らは美味しい物件を引き受けて、分割して売れる資産はどんどん売り、徹底的にリストラを行なって収益を出せる体質にしてから、その安く収得した株式を高値で売り抜けるわけである。下手なハリウッド映画よりうまくできた物語である。

小泉首相がブッシュに不良債権処理を国際公約してしまった以上、大手 30社への引当金を増やさざるをえない。そして棺おけ製造木村理論の導く方向に向かって走り出してしまったわけである。走り出してしまえば、ハゲタカたちはいよいよその照準を、最終ターゲットの金融機関に向けるにちがいないのだ。「公的資金」の注入をされても、大手 30社の不良債権増加の歯止めがかからないことを彼らは百も承知なのである。そして大手銀行の経営が悪化する頃合を今かいまかと待っていたハゲタカは、たっぷりと公的資金を吸収した大手銀行という死肉にたかるように、一気に買収を開始するわけなのだ。

1998年3月、政府は優先株と劣後ローンで総額1766億円の公的資金を日本長期信用金庫に投入した。その半年後に、日本長期信用銀行は公的管理の申請を行い、国有化された。その破たん処理には合計3兆7033億円の税金が使われたが、結局のところ、ハゲタカのリップルウッド社にわずか10億円の「のれん代」で売却されたことは、もはや誰もが知っている。

そして3年後のこの春、新生銀行株式会社は、今度は1兆円もの上場益を手にしたのである。たった3年間で1000倍以上のぼろ儲けである。しかもその間、取締役ティモシ・コリンズ氏と同じく取締役クリストファー・フラワーズ氏に、26億9100円もの顧問料が私たちの税金から支払わされたのである。潰さなくてよい銀行を潰して、そのお礼として小泉純一郎は、恐らく裏で密約のあったロックフェラーに、その巨大な利益を贈与したようである。 やれやれ

いま特に注視しなければならないもの

4月23日週末の株式市場は、終値で日経平均12100台を回復した。今後日銀の福井総裁や木村剛氏が怪しげな動きを始めなければ、おそらく日本の株価は上下の波動を繰り返しながらも上昇していくだろう。

とはいえ、23日7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)での福井日銀総裁の発言は、「消費者物価指数が安定的にゼロ%以上になるという金融緩和政策の目標が実現するまでには、先行きの道のりは容易ではない」といった具合の、なんだかハッキリした発言を避けている感じである。

もし本当に福井日銀総裁がデフレからの脱却を本気で考えているなら、いつもの2%前後の口先だけのインチキの緩和ではなく、「マネタリーベース」(日銀券の発行残高 + 日銀当座預金の残高)で対前年比2ケタの量的金融緩和を実施してもおかしくないはずである。今後の福井日銀総裁と木村氏の動きをとくに注視したいものである。

一方イラクの方では、6月30日以降の主権移譲先をアメリカは、ブラヒミ(国連事務総長特別顧問)を取りあえず表に立てることで国連主導に転換したふりをしながら、その実3200人もの外交官を有する世界最大規模のアメリカ大使館を7月1日に発足させようと企んでいる。結局のところアメリカは、イラク人過激派と米英軍の戦闘が予定通りますます「混乱」と「破壊」を極めることで、またもや国連機能不全になることをアメリカはしっかりと計画しているのである。

そしてとどのつまり、ネグロポンテ駐イラク大使率いる事務機能が整った「新アメリカ大使館」しか、もはやイラクを統治することができない、といった方向に自然と向かっていく流れをアメリカは作ろうという魂胆にちがいないのだ…。だから私は、こちらの方も、やはりよく注視していなければならない。 やれやれ

 

 

《主な参考文献および記事》

(本記事をまとめるにあたり、次のような文献および記事を参照しました。ここに、それらを列記して、著者に感謝と敬意を表すると共に、読者の皆様の理解の手助けになることを願います。)

★ 日本経済「暗黙」の共謀者 森永卓郎 (講談社 + α新書 2001)

★ 円の支配者 リチャード・A・ヴェルナー 吉田利子訳  (草思社 2001)

★ なぜ日本経済は殺されたのか リチャード・A・ヴェルナー、吉川元忠共著 (講談社 2003)

 

『終』

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